第7 刑弁「弁論要旨」起案の構成
1 大きな構成:弱い・重要な証拠ごと
(1)基本:検察官立証の構造にしたがった構成
基本的には,検察官立証の構造をふまえて構成する。
検察官立証をふまえて,弱くてかつ重要な証拠について,項目を立てていく。
具体的には,刑弁実務の書式集を参照。熟読のこと。
(2)総論・結語の必要性
弁護起案では,総論と結語が必要。
総論と結語で書くことは,ほぼ同じで。すなわち,結論を示した上で,争点ごとに簡単に自己の主張を記載する。分量の目安としては,半ページ~2ページくらい。(書式集参照)
(3)大項目の論述場所
ア 証拠能力→信用性
供述について弾劾する際,信用性だけでなく,証拠能力も争える事案では,どちらも争う。見分け方としては,証拠等関係カードで,弁護人が証拠能力について文句を言ったにもかかわらず,裁判所が321条1項2項等で証拠採用してしまった場合。
このときは,証拠能力→信用性の順序で,大きな項目を分けつつ,検討すること。
イ 自白の検討箇所
自白がある場合は,自白の証拠能力及び信用性を弾劾しなければならない。順序は,上述のとおり,証拠能力→信用性。
そして,自白の弾劾を論ずる箇所は,基本的には,一番最後である。つまり,他の証拠を弾劾した後となる。
その理由は,以下の通り。刑事裁判においては,被告人の自白以外の証拠から事実を認定することが基本に据えられているので,検察官立証も,自白以外から公訴事実を認定できるような証拠構造となっている。したがって,弁護人としても,被告人の自白を弾劾しただけでは,検察官立証を弾劾したことにはならない。よって,まず,自白以外の証拠を弾劾し,その後に自白を弾劾する,という順序をとるべきこととなる。
ただし,次に述べるとおり,アリバイは例外である。アリバイは,自白の後に来る。
ウ アリバイの検討箇所
アリバイは,自白よりも後である。(自白がなくても,もちろん最後。)
アリバイは,検察官立証の弾劾ではあるものの,検察官立証の間違い探しというよりも,弁護人が積極的な事実を主張することで検察官立証を弾劾する,という構造をとる。そこで,他の弾劾とは少し性格が異なる。よって,アリバイは,他のすべての検察官立証の弾劾が終わった後,おもむろに始めるのがよい。
エ 情状
被告人の主張通りでも,無罪にはならない場合(強盗で起訴されているけれど窃盗である,とか,殺人で起訴されているけれど傷害である,とか。)は,情状を主張しなければいけない。
情状は,最後に書く。
(4)大きな構成の例
code:ア 犯人性・直接証拠型・自白あり
第1 総論
第2 犯人識別供述は信用できない
第3 自白の証拠能力は認められない
第4 自白は信用できない
第5 被告人にはアリバイがある
第6 結語
code:イ 犯人性・間接事実型・自白なし
第1 総論
第2 情況証拠からの推認はできない
1 間接事実(1)について
2 間接事実(2)について
3 間接事実(3)について
4 まとめ
第3 結語
code:ウ 殺意・間接事実型・微妙な自白あり
第1 総論
第2 殺意の情況証拠は認められない
第3 自白の証拠能力は認められない
第4 自白の信用性は認められない
第5 情状
第6 結語
code:エ 共謀・間接事実型・微妙な自白あり
第1 総論
第2 共謀の情況証拠は認められない
(共謀のメルクマールごとに事実の不存在を主張する。
供述証拠の証拠能力,信用性は後述,としておくと書きやすい。)
第3 共犯者の供述調書の証拠能力は認められない
第4 共犯者の供述調書は信用できない
第5 自白の証拠能力は認められない
第6 自白は信用できない
第7 情状
第8 結語
2 小さな構成:弾劾の視点
(1)弾劾ポイントごとに項目分け
証拠能力を否定するとき,信用性を弾劾するとき,それぞれについて,複数の弾劾ポイントがあるはずなので,そのポイントごとに,項目を分けるべき。
(2)項目ごとに小見出しをつける
そして,項目ごとに小見出しをつけるとよい。
その際,小見出しとしては,メルクマールを(そのまま)使うとよい。
メルクマールによっては,検討順序も重要な場合があるので,なるべく順序も理解しておく。(ただし,そんなに神経質にならなくても十分。)
(3)アリバイの構成
アリバイの構成は,少し変わっているので,あらかじめおさえておく。
code:アリバイの構成
ア アリバイの内容
(ア)いつどこで何をしていたか
(イ)なぜそれがアリバイになるのか
イ アリバイの認定根拠と信用性判断
ウ アリバイを主張する時期の合理性
エ 検察官によるアリバイ弾劾立証に対する弾劾
(4)情状の書き方
犯情事実と一般情状事実に分けること。
(5)小さな構成の例
code:ア 犯人識別供述が検察官立証の柱である場合
第2 犯人識別供述は信用できない
1 観察についての問題点
(1)客観的観察条件について
(2)主観的観察条件について
(3)既知証人でないことについて
(4)顕著な特徴を挙げていないことについて
2 記憶についての問題点
再認同定まで1週間を超えている
3 選別手続についての問題点
(1)写真面割における暗示性
ア 写真の配列
イ 写真の枚数
ウ 撮影条件
(2)面通しにおける暗示性
ア 単独面接方式であることについて
イ 捜査官からの誘導
ウ 選別手続における服装のこと
4 犯人識別供述の変遷・詳細化
5 他の証拠との符合
code:イ 自白がある場合
第3 自白の証拠能力は認められない
1 違法な取り調べ下の自白である
(1)別件逮捕・勾留である
(2)違法な余罪取り調べである
2 自白に任意性がない
(1)偽計に基づく自白である
(2)長時間の取り調べ後の自白である
(3)捜査官のストーリーを押しつけた自白である
3 検察での問題点
4 まとめ
第4 自白は信用できない
1 客観的証拠と整合しない
2 自白をなすに至った経緯,動機等が不自然である
3 自白内容が変遷している
4 自白内容に合理性がない
5 秘密の暴露の有無がない
6 まとめ